慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
MAUI Project
博士論文

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学位取得年度 2009年度
氏名 稲葉 達也 (INABA, Tatsuya)
論文題目 細粒度化された実空間情報を利用したSCMプロセスデザイン
論文要旨

ユビキタス技術の進歩によって,企業は、従来よりも低いコストで細粒度化された実空間情報を利用できる環境にある。サプライチェーンマネジメント(SCM)を設計運用する流通業企業も、この細粒度化された情報をSCMに活用することを期待しているが、この新しい情報をどのように活用し、ビジネスプロセスを設計すればよいか、また、そのプロセスがどのような価値をもたらすかは,十分に解明されていない.本研究では,実空間情報の細粒度化をもたらす技術としてネットワーク型RFIDを前提とし,価値をもたらすビジネスプロセスの設計指針を導出するとともに,その指針に沿ったビジネスプロセスを設計・評価することを目的とする.

本研究は,設計指針導出と,その指針に沿ったビジネスプロセスの設計・評価の2つの部分からなる.また,ビジネスプロセスについては,3つの異なるビジネスプロセスからなる.本研究では,SCMにおける細粒度情報を「SCMプロセスの設計者及び実施者が利用できる,管理対象物単品単位についての,リアルタイムの,そして,任意の場所での,対象物の所在および状態に関する安定かつ正確な情報及び,その蓄積情報」と定義し,まず,前提としたネットワーク型RFIDによって,実空間情報の細粒度化がもたらされることを,机上及び,実証実験によって,検証した.

本研究では,細粒度情報を利用した価値実現として,近年のSCMが抱えている需要の不確実性の対応という方向性をとった.そして、需要の不確実性に対応するビジネスプロセスとして,動的なプロセスの実現を提案し、そのプロセスと細粒度情報を利用可能な環境とするために必要な要素を設計指針の要件抽出に用いた。設計指針としては、サプライチェーンに属する企業に価値をもたらす細粒度情報を利用したビジネスプロセスは、可視性,制御性,管理性,再構築性,適応性,公平性の6つの要件を満足する必要があること導出した.

設計指針に基づいて3つのプロセスを設計し、評価した.1つ目は,サプライチェーンにおける需要予測や発注の権限が,商品の販売拠点(例:店舗)に委譲されている場合に適用可能な,他拠点在庫引当下の在庫管理プロセスである.細粒度情報を利用することで,サプライチェーンを構成する各店舗は,自らが管理する商品のみならず,他店舗が管理する商品も販売可能となる.従来も同様な事は行われていたが,情報の制約のために定常プロセスとして設計運用できていない.細粒度管理は、このようなプロセスを定常化に貢献し,その結果,需要の不確実性の影響を軽減することができる.実施した解析的評価から,商品の移動にかかるコストが,販売価格と残存価格の差分未満の場合には,提案プロセスが,小売店,及び,サプライヤの利益の期待値の増大をもたらすことを示した.

2つ目のプロセスは,サプライチェーンにおける需要予測や発注が,本社組織など,中央によって一元管理されている場合に適用可能な,中央管理型在庫平準化実施下の在庫管理プロセスである.細粒度情報を利用することで,店舗商品の余剰と過剰を平準化するプロセスを定常プロセスとして設計できるようになり,需要の不確実性の影響を軽減することが可能になる.本研究では,提案のプロセスを実在する企業のサプライチェーンに適用して評価するという事例研究によって提案プロセスの評価を行い,結果として,既存のSCMオペレーションに比べて,提案の手法を用いることで,最適な調達商品量を,4% 程度削減できることがわかった.従来は,過剰な商品がサプライヤから店舗にもたらされ,結果として小売店とサプライヤの利益率の低下を招いていたが,提案プロセスがそれを回避することで,双方に利益の期待値の増大をもたらすことを示した.

3つ目のプロセスは,顧客のロイヤリティに応じた需要制御を利用した在庫管理プロセスである.需要の不確実性の影響が大きい商品の場合,売れ残りリスクを恐れて,小売店は控えめな商品調達をし,結果,機会損失を招く傾向がある.楽観的な商品調達をした場合も価格調整で需要を喚起し,調達した商品を販売できるが,その場合,値引きコストがかかってしまう.しかし,店舗内の細粒度情報を利用することで,特定の商品に興味を持っている顧客の情報を利用できるため,顧客のロイヤリティレベルに応じた値引きが可能になる.優良顧客の囲い込みは,既に,コストをかけて小売店が実施しているため,提案のプロセスを実施することで,値引きのためのコストをかけずに需要調整ができるようになり,結果として,楽観的に調達した場合のリスクを軽減することが可能になる.提案のプロセスをシナリオにより評価し,提案の手法が,小売店の利益の期待値を増大すること,顧客のロイヤリティレベルに応じて販売価格の調整が出来ること,販売期間中の小売店の在庫を調整できることを示した.

キーワード:
1. RFID, 2. 細粒度情報,3. サプライチェーンマネジメント,4. 業務プロセス,5. 在庫管理

連絡先 本文が必要な場合は下記までご連絡ください。
稲葉 達也 (tinaba at sfc.wide.ad.jp)


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