慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
MAUI Project
博士論文

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学位取得年度 2009年度
氏名 谷内 正裕 ( YACHI, Masahiro )
論文題目 映像化された学習者の関心を題材とする教材制作手法
論文要旨

本論文は,学習者の文脈に沿った学習環境を構築するため,映像化された学習者の関心を題材とした教材制作手法を提案するものである.

教育において,学習者の動機づけは大きな課題となっている.本研究は,学習者の関心題材を扱うことで動機づけを高める学習環境を実現するため,学習者が教材の制作段階から参加する教材制作手法を議論する.

本研究は学習者の題材を持ち込む手段として映像メディアに着目した.この映像メディアとは,ビデオカメラでおさめられた実写映像であり,学習者が体験した,またはこれから直面するであろう場面を収録したものである.

映像は具体性のあるメディアであり,言語を介することなく対象を取り込むことができる.また同時に多義性や連続性を有し,見る人によって着目点が多様である.従来の映像教材は,教材制作者が用意した映像題材を教材制作者が編集し,学習者に着目するべき点を誘導させていた.それに対し本研究では,学習者が映像題材を持ち込み,教材制作者が設計した編集ツールで学習者が題材を加工していくことで,学習目標に応じた体験的な学びを実現する.

本研究では,提案する映像教材を実現するには1)学習者の関心題材を含む映像素材を持ち込む方法,2)教材制作者による学習目標に応じた編集ツールの設計,3)学習者のインタラクションを支援するインタフェースの3つの要件があると整理し,この教材を作り上げるための教材制作システム,Partageを実装した.Partageは,学習者による映像を管理し配信するサーバーと,教材制作者によって機能を自在に組み合わせることができるサーバーによって構成され,多様な学習環境での動作を実現するWebアプリケーションである.

Partageで制作した教材は,合計5年間にわたり,小学校2校,大学2校において,348名の学習者を対象に授業において実践し,その効果を検証した.

小学校の総合的な学習の時間で行われた実践では,自身が住んでいる地域など身近な話題を,地域外の人物に伝える映像制作活動を行った.この活動では,まず学習者が撮影した地域の映像を編集して伝えたい内容を映像で整理し,その映像に日本語と英語でナレーションを付け加えることで,外国語の表現を身につけることができた.

小学校の外国語活動の時間で行われた実践では,映像化された学習者が日常生活で触れる題材をもとに,単語カードを作成する活動を行った.このカード教材を教室の電子黒板に映し出され,キャラクターによる発音の補助を得ながら,教師と学習者が協調して授業を運営することができる環境を実現した.

大学の英語の授業で行われた実践では,特定のシチュエーションで行われる対話表現を身につけるために,映像に外国語の音声を吹き替える活動を行った.この活動では学習者が関心を持つ場面が映っている母語映像を持ち込み,場面で使われる表現をグループで外国語に置き換えて音声を吹き替え,レビューしながら,場面を外国語で擬似的に体験することができた.

大学の英語と専門科目の授業で行われた実践では,外国語で行われる講義映像を受講しながら学習者がノートを取ることで,そのノートの記述量に応じて講義映像の再生速度がコントロールされる教材を開発した.この教材を介して,学習者は自身の関心事に沿った講義を使って,外国語によるノートテイクのトレーニングを行うことができた.

いずれの実践においても学習者は,教材制作者によって作り込まれた映像教材で学んでいるのではなく,学習者が関心を寄せる,文脈に沿った題材を元に学んでいる.学習者が必要としている知識や技能を習得するために,学習者自身が持ち込んだ映像を,Partageで作られたツールを用いて試行錯誤しながら編集し,学習を遂行していることが示されている.

本研究では,学習者が今後直面する場面や,学習者がこれまでに経験してきた場面を,ツールによる助けを得ながら,学びの題材として活用する機会を与えてきた.これらの機会は,学習者に学ぶきっかけとしての動機づけ,学びを維持するための動機づけ,学びを振り返る動機づけに一定の効果を見ることができた.このツールを用いた学習は,学習者が学び方を学ぶことが最終的な目的である.将来,同様の課題に直面したとき,ツールの手助けなしでも学習できる,能動的な学習者の育成につながる教材が実現できた.

本論文は,第1章で学習者の関心を題材とした学習環境の必要性,第2章で映像メディアとその編集機能を分析し,本研究で目指す映像教材制作のモデルを提案する.第3章では,第2章で述べたモデルを実現するために実装したPartageについて述べる.

第4章では外国語教育の場面での4つの実践の概要について述べる.第5章〜第8章では各実践について紹介し,第9章ではこれらの実践を元に,本研究で提案する映像化された学習者の関心を題材とする教材制作手法について考察する.第10章に本論文の結論をまとめる.

キーワード:映像メディア,映像編集,動機づけ,学習者の関心,外国語教育

連絡先 本文が必要な場合は下記までご連絡ください。
谷内 正裕 ( yachi at sfc.wide.ad.jp )


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