パヴァーヌ 亡き王女のための:M.RAVEL

Carlo Maria Giulini指揮のPhilharmonia Orchestraによるこの演奏は僕の教科書だった
「聖書」とか「聖典」のほうが近いかな

もう十数年前になるけれど この曲しか聴かなかった時期がある
毎週10枚以上のレコードを買っていたのに

ロマンチストのくせにドライな作風を好む(ええかっこしぃとも言うな)ラヴェルの裏代表作ともいえるこの曲は
柔らかい音色で構成された内声の変化と 控えめなmfから消え入りそうなpppまでのダイナミクスで物語を奏でる

当時の僕を悩ませていた 抗いようのない喪失感を お風呂の泡みたいに埋めてくれるように思えた

この演奏に出会わなかったら 僕は音楽を捨てていたように思う
ひょっとしたら外界との交流を諦めてしまっていたかもしれない


そんなわけで 端々まで体に染み込んでいるこの演奏を最終調整に使う

EQをしくじってると 違うハーモナイズに聞こえたりするし
定位やステレオ感が少しでも歪んでいるとオーケストラの配置がおかしくなる
たとえば ホルンが最前列にいたり 幅3mもあろうかという第2ハープが出現したりする

ゆっくり坐って 走り回って上がってしまったテンションと体温を下げたりも出来るし

本当は これから始まる舞台のために「あの頃」の気持ちを思い出しているのかもしれない...
なんて言えるほど進歩してないのがツライところだな とか考えながら


いつCDが止ったのかわからない程 丁寧に演奏が終わる
その余韻が消えてしまうとき 僕は幸せに満ちた切ない気持ちになる

大好きだった あの絵本の扉を閉じる時みたいに

さあ 時間だよ
 
 
 
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