施設の設計・建築


▲SFC上空からの全景。

 私たちソフトを担当する第一委員会の人間は、現場での建築作業についてはほとんどタッチしていなかったが、キャンパス施設の配置ということでは、教育・研究に直接関係する問題であるので、槙設計事務所に依頼して、こちらの希望を取り入れていただいた。

 その中でも最大のものは、まず大学ゾーンを中央に集中させるという構想である。他の郊外型キャンパスを見ると、広大な敷地を活用して、各種施設が点在しているものが多いが、実際にそこで活動している教職員・学生にはあまり評判がよくない。自分の学部の授業と研究室を往復するだけならよいが、他の施設に行くのにたいへんな時間がかかってしまう。そこで、研究・教育・事務に関するすべての施設を大学ゾーンの中にまとめることにした。SFCの敷地面積はほぼ日吉キャンパスと、大学ゾーンは三田キャンパスと同じなので、日吉キャンパスの中央に三田の山を置いたと考えると、すべてがわかりやすい。これは大成功の発想であった。

 次は研究棟と教室棟の配置である。

 研究棟というのは、たいていは「象牙の塔」のごとく独立して立っているものだ。槙設計事務所からの最初の試案もそのようなものだった。だが、私たち第一委員会で議論されていたのは、教員と学生の日常的コミュニケーションをどのように作り上げるか、ということであり、学生が一階の受付で「○○先生に面会したいのですが」とことわって入ってくる旧来の研究棟はその趣旨にあわない。学生がいつでも研究室にいて、先生もまた学生がグループワークをやっている教室に顔を出して…こんなのが私たちのイメージだった。それを生かしたのが今のカッパからラムダにつながる5棟の設計理念である。

 十年経過し、ほとんどのSFC教員はこの設計理念を是としていると思うが、そこには当然マイナスポイントもある。学生とのコミュニケーションははかれても、教員間のコミュニケーションがとりにくいということである。日吉・三田のような研究棟の場合、入り口は基本的にひとつで、そこに受付や談話室、メイルボックスなどがあり、そこで日常的なコミュニケーションが可能になる。談話室を見渡せば友人たちもおり、メイルボックスから取り出した郵便物を片手に合流することになる。日吉では通常われわれが親しみをこめて「おばさん」と呼ぶ、若い教員にとっては母親年齢の女性が2,3人おり、お茶を運んでくれるだけでなく、研究室全体の人の流れをすべて把握している。「○○さんは、今日は…」と聞けば、「先ほど授業が終わって戻られましたので、今はお部屋だと思います」といった明快な答えが戻ってくる。今思い返してもなつかしい、心温まる空間であったが、残念ながらこれだけはSFCにはない。

 SFC発足後、誰もが気付いたのがこの問題で、井関先生はじめいろいろな方々が教職員の日常的交流の場を実験したものだが、人のコミュニケーションというのは、自然な流れの中での如雨露のような合流点か、イベントでしかないと実感させられただけである。

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