オフィスアワー荒し

 AO入試、アドバイザリー・グループなど、SFCが日本で初めて取り入れたものは数多いが、オフィスアワーもそのひとつである。それを次々に回っては、先生の個人研究室で直接授業を受けようという学生たちが登場した。良き意味で手をやかされた女子学生のM君など、全教員の研究室を踏破したと聞く。

 私のような学生担当の責任者や、人気教授の梅垣さんなどはほとほとこれに悩まされ、ついには「逆オフィス・アワー」を設定した。オフィスにいるのだが、居留守を決め込むのである。

「生協の横にモスバーガーが出来るって本当ですか」

 当時は今の教職員食堂が教職員・学生の唯一の食事の場であり、生協も日吉・三田と違って扱えるものが事務用品などに限定され、食品はほとんど販売されていなかった。外部の業者に教職員・学生食堂を依頼する以上仕方がない措置でもあった。

▼ある日突然営業をはじめたギロス屋
 翌年から学生食堂を経営する予定のエームサービスが当時の小さな教職員・学生食堂を担当していたが、それだけでは学生のニーズにこたえられず、ある日から突然生協の横に小さなワンボックスカーが昼食時に駐車し、ホットドッグなどの販売を始めた。むろん、大学公認の業者であり、当然、学生の人気のまととなった。

 私自身は、学生担当の立場上、列に並んで鴨池の芝生やテラスの白い椅子でホットドッグを食べるわけにはゆかなかったが、おいしそうだった。だって、初年度赴任の方々はすべて記憶があると思うが、食堂入り口左のガラスのショーケースは2段しかなく、スパゲッティー、カレーライス、それにいつも似たような定食2品、これを私たち教職員と千名を越える学生が連日共有していたのであるから…

 「うわさ」を生み出す要素の多くは「期待」か「恐怖・不安」である。SFCにはどちらかというと前者型の前向きの学生が多いらしく、瞬く間に「生協の横にモスバーガーが出来る」といううわさがキャンパス中を席巻した。

▼NEXT