24時間キャンパス

 SFC開設当初、われわれが強調しつつ、しかも一番とまどったのはこの「24時間キャンパス」という標語だった。

 「24時間キャンパス」というのはSFCの最大のキャッチフレーズのひとつであったが、それは単純に言えば世界の「時差」の問題でしかない。日常的に24時間活動をしつづける人間はいないし、たとえこちらがそれに対応できる環境にあったとしても、今度は,コミュニケーションをとる相手が迷惑する。このことは国際電話をめぐる時差の問題ですぐにわかる。朝の9時にフランスに電話したり、夜中の3時にスペインからの情報に対応したりするのが24時間キャンパスの意味ではない。

 インターネットが普及した現在ではだれもが理解していることだが、当時はそうではなかった。高校を卒業したての若い元気な学生たちが考えた24時間キャンパスというのは、キャンパス中の全施設がが24時間稼動し、SFC中の研究室に終夜明かりがともっているといったものだった。

 人間はだれでも日に数時間は寝る。普通の人間は自宅に帰り、寝る前に風呂に入ったり、夜食を食べたり、自宅通学であれば家族とひとときの間でも会話をかわし、たとえ3時間の眠りであっても、翌朝はそれなりの手続きをへて仕事や勉学への環境に向かう。

 当時、一部というかかなりの学生が誤解したのは、「24時間キャンパスというのは、24時間物理的にそこに存在する」というものではなかったろうか。幸い慶應義塾の学生はそのあたりのけじめはきちんとしているので、深夜まで特別教室でレポートの作成や、講義でのプリゼンテーションの準備をし、気がつくと最終バスの時間。これに乗っても自宅への最終電車にはぎりぎり。さらに、次の朝は1時間目からインテンシブの外国語…当時の私も週に1,2度ほどは個人研究室のソファーベッドに寝泊りしていたので、こうした学生たちの気持ちもよくわかる。

 また、これは声を大にして言いたいが、「大学は勉強するところだ」というあたりまえのことをあらためて実践したのはSFCである。事務室の学生担当の若い職員からよく報告を受けたのだが、女子学生の親から電話があり、「うちの娘は毎日帰宅が夜中で、本人が言うには9時10時すぎまで友達とグループワークの準備をしているとのこと。私も慶應義塾出身だが、学生がキャンパス内で9時、10時まで勉強しているなどありえない。うそをついているに決まっているので、学校側できちんとした指導をしてほしい」

 これをお読みのSFCの学生諸君にも同様の体験のある方がけっこういるだろう。夜中に子供から電話を受け、「あ、ママ。明日のグループワークのプリゼンの準備をしているんだけど、メディアが閉まっちゃって、これから皆で○○で、××しようということになって、また夜間残留なの」 − こんな言葉のわからない電話に冷静に対応できる母親は少ないだろう。

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