弱さや脆さが垣間見える事は時として魅力であるが、弱さや脆さを見せる事は得策ではない。自己顕示は、大抵の場合裏目に出る。泣けないと言って泣き、甘えられないといって甘えるようなもの。
幸せは手に入れるものではなく、気づくものらしい。誰かにしてもらうものではなく、自然とそうなっている事が認識されるものらしい。
良い事ばかりではなく、美しいものばかりでないから、それに気がつく。そういうシステム。
そして、大切なものは残り、美しいものは消えない。
こうして今、失うものは失い、残るべきものは残っていた。リーアンも、シンクレアも、美しいシューマンも、ブラームスも、永遠に消えることはなかった。
(高村薫, 「リヴィエラを撃て」)