言葉の選び方、というものにこだわっていきたい。
同じ事が伝わる言い回しというのは、確かにたくさんある。「そう私は思う。」と「私はそう思う。」は、おそらく同種の意図が聞き手に伝わるはずだ。
でも、伝わる空気感や想いは、同じだろうか?
コミュニケーションの大きなウエイトを占める「言葉」について、どれだけ気を使うことが出来るか。そこに若干の遊び心と、ちょっとした変化を加えられるか。少しの差に人間性が現れるのではないかと思っている。
そういう意味で、「タイトル」にはとても敏感である。一言で、そのものの持つ本質や、雰囲気までを表現したものに当たると、それだけで得した気分になる。
このblogのタイトルに何度も引用している、レイ・ブラッドベリの作品のタイトル等はかなり傑作が多い。さすが巨匠、言葉の魔術師の異名をとるだけのことはある。さて、心を打つタイトルとしては、大別して以下の5つに分類することが出来る。
1) すぱっと日常系: 普通の日常のシーンを、大胆かつ簡潔に描写しているパターン。
例:「歓迎と別離」 、「優しく雨ぞ降りしきる」、「とうに夜半を過ぎて」
2) チェンジアップ系: フレーズの中に、ちょっと引っかかる言葉を挿入して余韻を出すパターン。
例:「メランコリーの妙薬」 、「百万年(ミリオンイヤー)ピクニック」、「A Miracle of Rare Device」
3) ドラマティック系: 短いフレーズの中に、ドラマを詰める。想像を掻き立てるパターン。
例:「すべての夏をこの一日に」 、「この世の幸福のすべて」 、「二人がここにいる不思議」、「瞬きよりも速く」、
4) 疑問系: 読者に疑問や謎を投げかけ、興味を引くパターン。長いものもある。
例:「おれたちは滅びてゆくのかもしれない」、「Then Is All Love? It Is, It Is!」、「恐竜のほかに、大きくなったら何になりたい?」 、「語られぬ部分にこそ」
5) 意味不明系: とにかく良く分からないタイトルで、強い印象を残すパターン。
例:「トランク・レディ」 、「太陽の黄金の林檎」、「いちご色の窓」、「The Kilimanjaro Device」、「全量服用、群集の狂気を阻む薬」
本当は、これに「6) その他」を加えないと集合論的に厳しくなる気もするが、そんなことに着目している人はいないと思うので、割愛する(だったら書かなければ良いのに...)。
中でも、「3) ドラマティック系」にとりわけ弱い。「この世の幸福のすべて」とは、なんと甘美なタイトルか。「この世のすべての幸福」ではなく、先に幸福を持ってくることで、絶妙なニュアンスが生まれている。
「瞬きよりも速く」、”速く”何をするのか、何が起こるのか。想像力を刺激する。原題は「Quicker than the eye」。カッコいい。
そんなわけで、わりと「ジャケット買い」ならぬ、「タイトル買い」をしてしまうことも多い。
偶然、心を揺さぶる言葉に出会えたりすると、本当に嬉しくなるのである。